うちのサロンは、ご来店くださるすべてのお客様を分け隔てなく、完全に平等におもてなしすることを理念としています。 開業当時の夢と希望にあふれたサロンオーナーさんは、だいたい面談の席で口を揃えてそう言います。それは素晴らしい志ですし、接客業の鑑とも言える誠実で理想的な姿勢であることに間違いはありません。
ですが、ビジネスとしての現実、そして経営という少しシビアで泥臭い側面に目を向けると、この絶対に平等な接客という美しいスローガンが、時に自分たちの店を静かに苦しめ、崩壊させる原因になってしまうことがあります。
あるアットホームで人気のネイルサロンの店長さんは、毎日のように安い初回クーポンを握りしめて駆け込んでくる新規のお客様の対応で、身も心もボロボロにクタクタになっていました。 そんなギリギリの休憩すらないオペレーションの中、3年間毎月欠かさず通ってくれている超常連のA様から、突然の予約の電話が入りました。
あー、ごめんなさいA様、その時間はちょっと新規の方の予約がいっぱいで入ってしまっていて、もしよければ明後日とかじゃダメですかね。
そう申し訳なさそうにお断りしてしまったそうです。 A様は、あ、そうなんだ、わかったわ、じゃあまた今度にしておくね、と電話口で優しく引き下がってくれましたが、それ以来、A様からの予約の電話はパッタリと途絶えてしまいました。
後からデータをシステムで計算して振り返ってみて、その店長さんは血の気が引く思いをしたと言います。 A様がこの3年間でサロンに落としてくれた金額、つまりLTVと呼ばれる顧客生涯価値は、なんと数十万円にも上っていました。一方で、その日無理やり時間を空けてねじ込んだ新規のお客様は、一番安い初回クーポンだけの利用で、こちらの予想通り二度と店に来ることはありませんでした。
私たちは、日々の忙しさに忙殺される中で時折、誰が本当にこの店を支えてくれている大黒柱なのかを完全に見失ってしまいます。 サロンにおける平等という罪の恐ろしさについては以前も少し触れましたが、この記事では、サロン経営を本当の意味で安定させるためのLTV分析と、恐れずに行うべきえこひいきの仕組みについて、徹底的にお話しします。
パレートの法則と1対5の法則が教える売上の真実
皆様はビジネスの世界でよく言われる、パレートの法則、またの名を80:20の法則という言葉を聞いたことがあるでしょうか。 これは、ビジネスにおける売上の80パーセントは、全顧客のうちのたった20パーセントという一握りの優良顧客によって生み出されている、という経験則です。
私自身、これまでさまざまな店舗の売上データをシステム上で紐解き、分析してきましたが、この法則は美容室やサロン経営において、背筋が凍るほど空恐ろしいレベルで正確に当てはまります。 毎月お店に来てくれる100人のお客様が、均等に皆で少しずつ売上を作ってくれているわけではありません。 毎月のように必ず来て、高単価のトリートメントやオプションを文句も言わず追加し、店販のシャンプーも惜しげもなく毎月買ってくれるような、ごくわずかな上位20パーセントの超優良顧客。彼らや彼女らこそが、スタッフの給料を払い、家賃を払い、お店の純利益の大部分を生み出してくれている本当の立役者なのです。
さらにもう一つ、マーケティングの教科書には必ず載っている、1対5の法則というものがあります。 これは、まだ見ぬまったく新しい新規顧客を1人獲得するには、既存の顧客にまた来てもらうためのコストの実に5倍ものコストがかかる、という非情な法則です。
にもかかわらず、多くのサロンは新規集客、つまりポータルサイトの掲載料やネット広告にばかり毎月何万円、何十万円もの広告費を水のように垂れ流し、この一番大切な上位20パーセントへの還元や特別扱いについては、ほとんど無頓着です。 先ほどのネイルサロンの例のように、ずっと通ってくれている常連のお客様と、今日初めて来たクーポン狙いの初回荒らしのお客様をまったく平等に扱うということは、実のところ、あなたのお店を必死で支えてくれているロイヤルカスタマーへの不誠実極まりない裏切りに他ならないのです。
記憶力頼みのどんぶり勘定という時限爆弾
いやいやうちは大丈夫ですよ、うちのスタッフはみんな常連さんの顔をよく覚えているし、VIP対応はちゃんと接客の中でできているはずですよ。 そう自信を持って反論されるオーナーさんもいらっしゃいます。 でも、本当にそうでしょうか。
スタッフの記憶力や、あの人はよく来るよねといった感覚ほど、ビジネスにおいて脆くて危ういデータベースはありません。 たとえば、オーナーのあなたに質問です。 今、あなたのお店で過去1年間の累積消費額が最も高い、上位トップ10の顧客の名前を、上から順番に即座にフルネームで言えますか。
もしもこの質問に一瞬でも詰まってしまったり、ええっと、と天井を見上げて少しでも考えてしまうのだとしたら、そのVIP管理は単なるどんぶり勘定に過ぎません。 人の記憶は月日とともに曖昧になりますし、何より、そのお客様を担当しているスタッフが何かの都合で退職してしまった途端、その常連さんへの特別扱いや心地よい阿吽の呼吸は、お店から完全に消え去ってしまいます。そして常連客も、担当の退職と共に、私の好みを分かってくれていたあの人がいないなら、もうこの店にいく意味がないわね、とそっと去っていくのです。
本当の経営は、なんとなくこの人はよく顔を見るなというふわっとした感覚から脱却し、誰が、いつ、これまでにどれだけの金額を落としてくれたかという経営課題を、正確なデータ、つまり数字として可視化することから始まります。
システムにえこひいきの基準を自動で判別させる
このどんぶり勘定から力強く抜け出すためには、アナログな紙のカルテやExcelに手入力するといった過去の遺物では圧倒的に力不足です。 ここでこそ、デジタルの予約システムと顧客管理、つまりCRMが完全に一体となったツールの真価が発揮されます。
サロンのロイヤルカスタマーに向けたVIP戦略を実現するためには、たとえばAqsh Reserveのようなシステムが非常に有効に機能します。 このシステムには、患者やお客様ごとのLTVである顧客生涯価値を自動で計算し、どのお客様がお店の売上を牽引しているのかを一瞬であぶり出す仕組みが備わっています。 直近12ヶ月の累積消費額をシステムが裏でずっと24時間計算し続け、規定の金額を超えた上位の顧客に対して、自動的にVIPバッジ、たとえば1位から50位などのランクを勝手に付与してくれるのです。
このバッジの存在は、売上ダッシュボードや日々の予約カレンダーの至る所にシステム上で表示されます。 朝の朝礼でその日の予約カレンダーを開いたとき、あ、今日の14時に来る〇〇様は、うちのVIPランク3位の超重要なお方だ、と、オーナーだけでなくアシスタントから新人スタッフまで全員が瞬時に共有できる。 この圧倒的な可視化こそが、店全体の接客のクオリティを根底から、そして永続的に変えます。
いつもありがとうございます、という顔も見ずに誰にでも言えるような定型句ではなく、〇〇様、今月もご来店ありがとうございます、実は〇〇様に絶対に似合う新しいオーガニックのヘアオイルが入ったので、今日は少しだけ特別に試してみませんか、と、胸を張って特別なアプローチが堂々とできるようになるのです。
静かなるVIPアプローチの実践的メソッド
誰がVIPなのかをシステムで可視化できたら、次はそのお客様が絶対にこの店から離れたくなくなるような、ある種のえこひいきを仕掛けます。 とはいえ、他のお客様の目の前で露骨にエコ贔屓を見せびらかして、他の方を不快にさせる必要はありません。私がお勧めするのは、システムのCRMを使った、静かなアプローチです。
システム側で上位20パーセントのVIP顧客だけにセグメントを絞り込み、特別なLINEやメールを送信します。 いつも当店を一番に支えてくださる〇〇様へ。来月の予約枠を、一般公開に先んじて〇〇様だけに先行開放いたしますので、ご希望の日時をおさえてください。 あるいは、新しく導入する予定の高級トリートメントのテストモニターとして、いつもお越しいただいている〇〇様にぜひ真っ先にご体験いただきたいのですが、いかがでしょうか。
こうしたアプローチをダイレクトに受けたお客様は、あ、私はこの店から特別に大切に扱われているんだ、という強い承認欲求と自己重要感が強烈に満たされます。 そして、その後スマホでちょっとやそっと安いクーポンをばらまいている別のお店を見かけても、でも、私の髪のこと、お金のことを一番分かってくれているのは結局あの店だから、と、決して浮気することはない、極めて強固なラポールと呼ばれる信頼関係が築かれるのです。
平等という名の罪を捨てて、店を愛す人を愛す
ビジネスにおいて、すべてのお客様を機械的に平等に扱うことは、時として最大の不平等になります。 あなたのお店に投資し、あなたの技術を愛し、毎月交通費をかけて通い続けてくれているお客様こそ、最高の賞賛とVIP待遇で報いられるべきなのです。
えこひいきという言葉のネガティブな響きに怯える必要はありません。 それは、お店の利益を守るための極めて論理的で冷徹なマーケティング戦略であり、同時に、あなたのお店を本当に愛してくれているお客様に対する、最大級の感謝の表現に他なりません。
あなたの店を支えているのは、検索結果のトップに出てきた気まぐれで一過性の新規客ではなく、予約システムに深く刻まれた、何度も名前を見てきたあの人です。 その事実をシステムという客観的なデータで容赦なく見える化した時、きっとあなたのサロン経営は、今までよりもずっと強くて、そして芯の通った温かいものに変わっていくはずです。



