忙しかった。朝から晩まで予約は埋まっていたし、スタッフも休憩を削って回してくれた。レジ締めの感触でいえば、今月は悪くないはずだった。

ところが月末に通帳を見ると、残高が先月とほとんど変わっていない。いや、むしろ微妙に減っている。

あれだけ働いたのに、なんでだ。

この瞬間の虚脱感は、サロン経営者なら一度は味わったことがあるんじゃないかと思う。私自身、多くの店舗経営者と話をしてきたが、この忙しかったのに利益が残らない問題は、規模に関係なく、驚くほど多くのオーナーが抱えている。

答えを先に言ってしまうと、原因はシンプルだ。見るべき数字を見ていない。もっと正確に言えば、見るべき数字が何なのかを知らない。

売上の総額しか見ないのは、体重計だけで健康診断するようなもの

多くのサロンオーナーが見ている数字は今月の売上と今月の経費、この2つだけだったりする。

売上から経費を引いて、残った分が利益。これ自体は間違いではないが、問題はここから先がないことだ。

売上が下がったとき、なぜ下がったのかがわからない。客が減ったのか。客単価が落ちたのか。新規はちゃんと来ているがリピーターが失客しているのか。あるいは特定のスタッフの売上だけが落ちているのか。

総額しか見ていないと、これらの区別がつかない。体重計に乗って太ったとは分かるが、筋肉が減ったのか脂肪が増えたのか、食べすぎなのか運動不足なのか、原因がわからないまま、じゃあとりあえず食べる量を減らそうと的外れなダイエットを始めるようなものだ。

サロンでいえば、売上が落ちたからクーポンで値引きしようという安易な対処に走る。しかし本当の原因がリピート率の低下なら、値引きは新規を呼ぶだけで既存客の流出は止まらない。むしろ客単価をさらに下げて利益を圧迫するだけ。悪手中の悪手を、原因がわからないから自覚なく選んでしまう。

最低限これだけ見ろ。サロン経営の5つのKPI

KPIといういかにもビジネス書っぽい言葉に抵抗がある方もいると思うが、要は経営の健康診断の項目と考えてほしい。体重、血圧、血糖値を定期的にチェックするように、サロンの健康状態を測るために最低限5つの数字を追うことを勧めている。

一つ目。月間売上。これは全員見ている。ただし日次でも追うようにしてほしい。月末にまとめて見るのでは遅すぎる。週ごと、できれば日ごとの売上推移が見えれば、月の半ばで今月ちょっとペースが落ちてるなと気づける。気づけば手が打てる。気づかなければ月末に愕然とする。

二つ目、来店客数。ここで大事なのは新規と既存の内訳を分けること。合計だけ見ていると、新規が増えたのに既存が減っているケースに気づけない。穴の空いたバケツに水を注ぎ続けている状態だ。

三つ目が客単価。これが意外と液。全体の平均客単価は把握していても、メニュー別や時間帯別で見ているオーナーはほとんどいない。平日の昼はカットだけの低単価客が多い、土曜はカラー込みの高単価だが施術時間が長すぎて回転率が落ちている。こういう発見が経営判断をガラリと変える。私があるサロンのデータを見たとき、平日午前の客単価が土曜の半分以下だったことがある。それまでオーナーは平日も土曜も同じだと思い込んでいた。客単価を静かに上げるデータ活用術でもこの掘り下げ方を詳しく書いた。

四つ目。リピート率。これが5つの中で最も見落とされていて、最もインパクトが大きい数字だ。業界の平均値を知っておくと自店の立ち位置がわかる。新規顧客のリピート率は約30%前後、既存顧客は約70%前後が業界平均とされている。もしあなたのサロンの新規リピート率が20%を切っているなら、集客方法か初回の体験に深刻な問題がある。逆に50%を超えているなら、かなり健全な状態。まずこの基準と自店の数字を突き合わせることが出発点になる。

この数字を追うときに特に有効なのがコホート分析で、いつ来た客がいつ離脱したかが見える。コホート分析の入門解説を読んでいただければ分かるが、ここまで掘り下げて初めて、失客のタイミングと原因にたどり着ける。

そして五つ目がスタッフ別生産性。個人的にはこれが一番、経営者の目を覚まさせるKPIだと思っている。スタッフ一人あたりの売上、予約件数、稼働時間。これを見ると、Aさんは指名が多いが施術時間が長く回転率が低い、Bさんは回転率は高いがリピート率が低い、といった課題が数字で浮かび上がる。

感覚で頑張っているなと思っていたスタッフの実際の数字が期待以下だったり、目立たない子が実は黙々と高い成果を出していたりします。このギャップを放置すると、正当な評価が行われず、結果的に優秀なスタッフが辞める原因になる。エースが辞めても崩れない仕組みで触れている離職問題の根っこは、実は評価の不透明さにある。

エクセルで挫折する理由と、挫折しないための方法

5つの数字を追えばいいのか、じゃあエクセルで管理表を作ろう──と考えた方、ちょっと待ってほしい。

その管理表、作るのは3日でできるかもしれないが、運用が3ヶ月続いた人を私はほとんど知らない。

毎日の施術が終わった後に、予約台帳からデータを転記して、客単価を計算して、新規と既存を分類して、スタッフごとに集計する。これを毎日やる気力が、朝から晩まで現場に立っているオーナーに残っているだろうか。正直に言えば、無理だと思う。

最初の1週間は気合いで乗り切れる。2週間目に入ると少しサボる日が出てくる。3週目にはまとめて月末にやればいいかと後回しにして、月末にはデータの記憶が曖昧になっていて正確な集計ができない。結局エクセルの行が途中で止まって、やっぱり感覚でいいやに戻る。このループを何年も繰り返しているサロンを何軒も見てきた。

だからこそ、私が強く推しているのは、予約が入った瞬間にデータが自動で蓄積され、ダッシュボードを開くだけで5つのKPIが表示されるタイプのシステムだ。手入力が一切不要というのがポイント。Aqsh Reserveのような予約管理と分析が一体化したサービスなら、予約を受け付けるだけで売上推移も来店客数も客単価もコホートもスタッフ別もすべて自動で更新される。

どんぶり勘定からの卒業でも詳しく書きましたが、分析にエネルギーを使うのではなく、分析結果を見て判断することにエネルギーを使う。この切り替えができたサロンから、感覚経営を本当の意味で卒業していきます。

数字を見ることで変わるのは、売上だけではない

KPIを追い始めると、見たくない現実が見えてくることもある。自信を持っていた新規獲得施策のリピート率が実は15%しかなかったとか、可愛がっていたスタッフの生産性が最下位だったとか。

それでも、数字を見ることを勧めたい。

今月は忙しかったからきっと大丈夫だという根拠のない安心感に頼って月末を迎えるのと、ネット予約数は前月並みだが既存客のリピートが5%落ちている、来月は休眠顧客へのLINEアプローチを試そう──と根拠をもって手を打つのと、どちらの経営者のもとで働きたいかはスタッフに聞けばすぐわかる。

正直なことを言うと、数字で変わるのは売上だけではない。経営者の精神的な安定も変わる。漠然とした不安を抱えたまま毎日現場に立つのと、課題は見えているしその対策も分かっているという確信を持って現場に立つのとでは、1年後のメンタルの消耗度がまるで違う。

多店舗経営でのデジタル本部という考え方でも書きましたが、数字が見えている状態になって初めて、経営者は経営に集中できるようになる。現場に立ちながら頭の中で常にお金の不安を抱えている状態は、お客様の前で100%のパフォーマンスを出せない原因にもなっている。

5つのKPIは連動している。だからバラバラに見ても意味が薄い

最後にもう一つだけ伝えておきたいことがある。

ここまで5つのKPIをそれぞれ個別に説明してきたが、実際の経営ではこれらは複雑に絡み合っている。客単価が上がったのに売上が下がっているなら、来店客数が減っている。来店客数がそこそこなのに売上が低いなら、客単価が落ちている。リピート率が高いのにスタッフ別生産性にバラつきがあるなら、特定のスタッフだけに予約が偏って他のスタッフが遊んでいる可能性がある。

こういう因果関係を見つけるには、5つの数字を一つの画面で横断的に見られる環境が必要になる。エクセルのシートを5枚開いて見比べるのは現実的ではない。ダッシュボードで一覧表示されていてクリックすればドリルダウンできる。そういう環境があって初めて、KPIはただの数字ではなく経営判断の材料になる。

リピート率改善の取り組み方でも触れていますが、一つの数字だけを改善しようとしても、他の数字との関係を無視していれば効果は限定的だ。全体像を俯瞰して、最もインパクトが大きいポイントに集中してリソースを投入する。それが数字に基づく経営の本質。

まずは5つ。売上、客数、客単価、リピート率、スタッフ生産性。この5つの数字を、毎日とは言わないまでも、せめて週に一度は確認する習慣をつけること。無料ツールの限界を超えて、自動で数字が見えるシステムに投資するのは、月に5,000円からできる。

その5,000円は、あなたが夜安心して眠るための保険だと思ってほしい。

月額5,000円から始める自社予約システム Aqsh Reserve

初期費用0円・7日間無料トライアル

無料で試す