「これ以上、客単価を上げるなんて絶対に無理ですよ。もしうちがカット料金を500円でも値上げしたら、今来てくれている地元の常連さんは、みんな近所の別の安いお店に流れてしまいますから」

私がサロンの経営改善のコンサルティングに入る際、収益性の低さに苦しんでいるオーナーさんに客単価の見直しを提案すると、99パーセントの確率でこのような強烈な拒絶反応が返ってきます。

光熱費は高騰し、カラー剤などの材料費も問屋から次々と値上げの通達が来ている。それなのに、お店のメニュー料金だけは5年前、あるいは10年前のオープン当時から1円も変わっていない。 利益がどんどん圧迫されていく中で、それでもなお値上げ=裏切り=失客、という強迫観念に縛られ、利益の減少分を自分たちの労働時間を増やす(客数をがむしゃらにこなす)ことでカバーしようと必死に汗を流している。

これは、真面目でホスピタリティが高く、お客様のことを本当に大切に思っている美容師やセラピストほど陥りやすい、恐ろしく残酷で生々しい経営の罠です。

スタッフの心をすり減らす無理な物販の正体

メニューの基本料金を上げられない経営者が、客単価を数千円でも上げるために次に手を出すのが、施術中の物販の強化やその場でのトリートメントのアップセルです。

オーナーは朝礼でスタッフに発破をかけます。 「今月の目標客単価は8,500円だ。だから全員、仕上げの時に必ずこの新しいサロン専売シャンプーをお勧めして、物販の売上を今の倍に引き上げてくれ!」

でも、現場の最前線で働く現場で汗を流すスタッフたちの心の中は、罪悪感でいっぱいです。 本当はお客様にゆっくりとリラックスして帰ってほしいのに、マニュアル通りに無理やり会話を商品の説明に持っていかなければならない。鏡越しに見えるお客様のあ、また営業されたな、という微妙に引きつった顔を見るのが、スタッフは何よりも辛いのです。

結果として、スタッフはお客様に嫌われたくないという一心から商品説明を躊躇し、目標の客単価には絶対に届かない。そして月末の見出し会議でオーナーはなぜ誰も売らないんだと怒り、スタッフは理不尽さに疲弊して辞めていく。 このような、誰も幸せにならない不毛な争いが、日本中の何万というサロンのスタッフルームで今日も繰り広げられています。絶対に。

値上げを恐れるのは全体を一括りで見ているから

「先生、私……客単価を上げるのが本当に怖いんです。お客さんが怒って来なくなっちゃう気がして」 昔、会議室で泣きそうになりながら絞り出した、あの小さなサロンの女性店長の声。彼女が値上げのプレッシャーにどれほど押し潰されそうになっていたか。 でも、その彼女が初めてコホートのデータを見て、「あっ……常連のお客様って、こんなに私の技術を頼りにしてくれてるんだ」と気づいた時。彼女の顔がパッと明るく輝いたあの瞬間を、私は一生忘れることはないと思います。

なぜ、このような痛ましい状況が生まれるのでしょうか? それは、経営者が客単価、というものを、すべてのお客様に対して【均等に】上げようとしているからです。

コホート分析による感覚経営からの脱却のお話でも詳しく解説しましたが、あなたのお店に来ている目の前のお客様は、決して全員が同じモチベーションを持った均一の集団ではありません。

大きく分けると、以下の2つの層が混在しています。

  1. 価格で選んでいる層: たまたま家から近かったから、あるいはクーポンで他より安かったから来ている層。彼らは確かに、500円値上げした瞬間に容赦なく他店へ去っていきます。
  2. 価値(あなた)で選んでいる層: あなたの接客、お店の空間、確かな技術に心底惚れ込み、この人に自分の髪(体)をずっと任せたいと強い信頼を寄せている優良顧客層。

値上げに怯えるオーナーは、常に前者の価格で選んでいる層(離脱予備軍)の顔色ばかりを気にして、メニューの価格を据え置いてしまっています。もう、そんな我慢は終わりにしませんか。 でも、経営を本当に助け、お店の存続を支えてくれているのは、売上の8割を構成している後者の価値で選んでいる数少ないVIP顧客なのです。

そしてここが最も重要な真実なのですが、この価値に対する感度の高いVIP顧客たちは、実は1,000円や2,000円の値上げで店を離れるほど薄情ではありません。 むしろ彼らが求めているのは、「少し高くてもいいから、もっと自分に合った特別な提案をしてほしい」「自分の髪の悩みを、プロとして先回りして解決してほしい」、という、極めて純粋な【価値の向上】なのです。ただそれだけのこと。

写真付きカルテが生み出す静かで上品なアップセル

では、スタッフに無理な営業(押し売り)の罪悪感を抱かせず、優良顧客の単価だけを静かに、そして確実に上げるためには具体的にどうすればいいのでしょうか?

そこに必要なのは、気合や話術といった属人的なスキルではありません。お客様一人ひとりの過去のデータを完全に把握し、プロとして必然性のある提案をするシステムインフラです。

ひとつ、残酷な例を出しましょう。Aqsh Reserveのような顧客管理・予約システムには、お客様の来店履歴だけでなく、前回の施術後の後ろ姿を撮った【写真付きの電子カルテ】を無制限に保存する機能があります。これもただの記録ではなく、強力な単価アップの武器になります。

スタッフは、今日の午後予約が入っている常連の佐藤さんのカルテを、朝の空き時間にタブレットで確認します。 「前回カラーした時の色がこれ。でも過去の来店のタイムラインを見ると、佐藤さんはいつも春先になると『髪のパサつき』を気にする傾向があるな。今回はカラーに加えて、新しく入った春限定の超高濃度トリートメントが絶対に合うはずだ」

佐藤さんが来店し、鏡の前に座った時の最初の会話。 「佐藤さん、いつもありがとうございます。これ、前回の仕上がりの写真なんですが、すごく色持ち良かったですよね。ただ、過去の記録を見ていると、佐藤さんの髪質だと毎年この時期(春先)に少し乾燥してパサつきが出やすくなるみたいなんです。今日、もしお時間があと20分あるなら、春先特有の痛みを完全にブロックする新しい特別なトリートメントがあるんですが、一緒にやっておきませんか? 絶対に今日やっておいた方がいいです」

いかがでしょうか? これを聞いた佐藤さんは、えっ、また営業されたとは絶対に思いません。 むしろ、「私の何年も前の履歴まで全部見てくれて、私の髪の変化を私以上に分かってくれている。この人が言うなら絶対にお願いしたい」と深く感動し、喜んで数千円の追加メニュー(アップセル)を受け入れてくれるはずです。

スタッフも同じです。押し売りをしたという罪悪感は微塵もありません。「目の前のお客さんが一番喜んでくれるプロとしての解決策を提示し、適正な対価を頂いた」という、技術者としての強い誇りと自信を手に入れることができます。 これが、データ(電子カルテ)を活用した、誰も傷つかない静かで上品な客単価アップの本当の姿なのです。

コホート分析で単価を上げるべきタイミングを見極める

もう一つ、客単価を上げる際に経営者が知っておくべき決定的なデータがあります。……いや、本当にそれで店が救われるのでしょうか。 それは「お客様があなたのお店に通い始めてから、何回目・何ヶ月目のタイミングなのか」という、来店サイクル管理のデータです。

Aqsh Reserveの分析機能(分析ダッシュボード)には、【コホート分析】、という画面が存在します。 これは、「1月に初めて来店したご新規様のうち、3月に追加メニューを頼んだ人は何パーセントか?」といった、お客様の行動の軌跡を視覚的に明らかにする強力なツールです。

多くのオーナーはこのデータを見て衝撃を受けます。なぜなら、「トリートメントなどの単価アップの提案が最もスッと通る(成約する)のは、実は【初回】ではなく【3回目〜4回目】の来店時である」という事実が明確に数字として突きつけられるからです。

初回の目の前のお客様は、まだあなたのお店を100%信用していません。その段階でいくら高いシャンプーやトリートメントを提案しても、高いものを売りつけられる危ない店だと警戒されて終わりなのだ、と言っても言い過ぎではありません。 でも、あなたの技術で2回、3回と髪が綺麗になり、お店の空気感にもすっかり慣れて完全に信頼関係(ラポール)が構築された3回目以降のタイミング。コホートデータは、まさにこの時こそが、単価の高い上位メニューを提案すべき【黄金のタイミング】であることを教えてくれます。絶対に。

このデータさえあれば、経営者はスタッフに対してとにかく全員に売れという無茶な命令を出す必要がなくなります。 「新規の人には一切売らなくていい。ただ120%の技術で喜ばせて帰して。でも、今日で3回目の来店になる鈴木さんには、うちの一番良いトリートメントを必ず提案してね」と、極めて具体的で的確な指示を出すことができるようになるのです。

どんぶり勘定の恐怖から抜け出し、プロの価値を証明する

値上げが怖い。客単価を上げたら客が離れるのが怖い。 その恐怖の根源は、お客様全員の顔色をうかがい、「誰に、いつ、何を提案すべきか」という事実(データ)を全く把握できていない【どんぶり勘定】にこそあります。

無料システムの落とし穴でも触れましたが、経営のインフラに投資を惜しみ、紙のカルテと感覚だけで商売を続けている限り、この漠然とした恐怖から経営者が解放される日は一生来ません。

お客様の過去の写真を残し、来店サイクルを読み解き、信頼関係の熟成度合いを可視化する。 月額5,000円から導入できるAqsh Reserveの分析ダッシュボードと電子カルテは、ただの記録ツールではありません。それは、あなたが職人として培ってきた技術と哲学を、正当な価格(客単価)に変えて利益を生み出すための、最も強力な武器(データ)なのです。

価格競争に巻き込まれ、クーポンでやってくる見知らぬ人を大量に捌き続ける激務。 あるいは、あなたのことを深く理解してくれる少数のファンに囲まれ、彼らのためにだけ最高の提案をし、高い単価を頂きながら静かに豊かな時間を過ごす経営。

客単価を上げるというのは、ただ売上を増やすということではありません。 「自分は誰のために、この仕事をしているのか」を取り戻し、技術者として、そして経営者としての【正当なプライド】を取り戻すための、絶対に逃げてはいけない登竜門なのです。少なくとも、私はそう確信しています。

参考:

お店の命綱を、これ以上他人に委ねるのはやめにしませんか。 システムは、あなたとスタッフの心を守る最高の盾になるはずです。

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