月末の請求書を見て、また胃がキュッとなる。
掲載料だけで数万円。ネット予約の手数料を合わせると、毎月の固定費にどれだけのお金が流れているのか、正確に把握できていないオーナーも少なくないです。まあ新規客が来ているから仕方ないと目をつぶりながら、もう何年も同じプランを契約し続けている。
その気持ちはよくわかります。私も長年、店舗経営に関わる中で、帳簿を広げながらこの広告費、本当にペイしているんですかねと呟くオーナーを何人も見てきました。わかっているのに、やめるのが怖い。その恐怖の正体は、数字がわからないことそのものだと思っています。
この記事では、集客ポータルの掲載料の実態を分解し、あなたのお店にとって続けるべきか、減らすべきかを数字で判断するための基準を整理します。
掲載料の金額を分解してみる
大手ポータルサイトの料金体系は公式には非公開ですが、業界では広く知られている相場があります。正確な金額はエリアや業種によって異なりますが、だいたいの構造はこうなっています。
- ライトプラン(月額2.5万〜5万円):掲載されるだけ。検索順位は低め
- ミドルプラン(月額5万〜15万円):特集枠への掲載あり。多くのサロンが選ぶ帯
- 上位プラン(月額15万〜30万円):検索上位表示。クーポン枠も充実
- プラチナ級(月額30万〜50万円超):都心部の激戦区で上位表示を狙う場合
これに加えて、ネット予約売上に対して一律2%の手数料がかかります。契約は半年または年間単位が一般的で、途中解約は原則として返金なし。
ここまでは多くのオーナーが把握しているはず。でも実際に経営を圧迫しているのは、この表に載っていない隠れコストのほうだったりします。
請求書に載らない3つのコスト
掲載料と手数料だけがポータルのコストではありません。
まず、写真の撮影・更新費用。ポータルの掲載ページを魅力的に見せるために、プロのカメラマンに撮影を依頼したり、季節ごとにクーポン画像を作り直したりする費用は、年間で見ると10〜30万円になることもある。写真のクオリティが上がれば予約が増えると言われて撮影したけれど、プランが低いからそもそも表示されない——こういう笑えないケースを何度か見ました。担当者はそこまで教えてくれないんですよね。
次に、クーポンの値引き原価。初回限定50%オフや特別コースの割引。これは掲載料とは別に、売上から直接差し引かれるコスト。カット+カラー12,000円のメニューを初回6,000円で提供していたら、差額の6,000円×月間新規客数がそのまま値引き原価になります。
矢野経済研究所の2024年度調査では、理美容サロン市場が前年比1.5%増の2兆1,240億円と発表されていますが、その成長の多くは料金改定——つまり値上げによるもの。値上げで単価を上げたはずなのに、入口で大幅な初回割引を配っていたら差し引きゼロです。下手をするとマイナス。
そして最もカウントされにくいのが、クーポンホッパー対応に使う現場の人件費と精神的コスト。初回だけ来て二度と来ない客に、通常の顧客と同じ2時間の施術枠を使い、薬剤を消費し、スタッフの体力を使い——その結果、得られるのは6,000円の売上と次はいつにされますかに対するまたこちらから連絡しますという社交辞令だけ。
その時間で常連さんの施術なり、スタッフ教育なりができたはずです。さらに言えば、予約枠を埋められた既存のお客様への申し訳なさや、「また来ないかもしれないな」と薄々感じながら接客を繰り返すスタッフの激しい徒労感(モチベーション低下)は、お店にとって取り返しのつかないほどのダメージになります。でもこのコストは帳簿のどこにも現れない。だからこそ厄介なのです。
年間のリアルな総コスト
シミュレーションをしてみます。月額10万円プラン、月間ネット予約売上が200万円のサロンの場合。
- 掲載料:月10万円 → 年120万円
- 予約手数料(売上の2%):月4万円 → 年48万円
- 写真撮影・クーポン制作(案分):月1.5万円 → 年18万円
- 初回クーポン値引き原価(30人×3,000円):月9万円 → 年108万円
- 合計:月24.5万円 → 年294万円
年間294万円。10万円プランですらこの規模感になります。上位プランにしていたら400万円を超えるケースも珍しくない。
この金額をスタッフの給与改善や設備投資に回せたら? と考えると、胸のあたりがざわつくオーナーは多いんじゃないでしょうか。
LTVで費用対効果を判断する
ただし、掲載料が高い=やめるべきと短絡的に結論づけるのは危険です。判断基準は1つだけ。ポータル経由で来た新規客のLTV(生涯売上)が、獲得コストを上回っているかどうか。
月に30人のポータル新規が来ていて、月間の獲得コストが約24.5万円だとすると、1人あたりの獲得コストは約8,200円。
ではその30人のうち、2回目以降も来店してくれる人は何人か。私の経験で言うと、ポータル経由の新規リピート率は平均で20〜30%。30人中6〜9人しか残りません。
残った人が年間5回来店し、1回の客単価が8,000円だとすると、1人あたりの年間LTVは40,000円。この6〜9人だけが元を取ってくれる客になる。
残りの21〜24人にかかったコストは——純粋な赤字です。
もちろん、リピート率が50%以上あるサロンなら話は別。あなたのお店のポータル経由リピート率がいくつなのか、把握できていますか。
この数字を知っているか知らないかで、続ける・やめる・プランを下げるの判断がまるで変わってきます。コホート分析で感覚経営から抜け出す方法で、こうしたグループ別の定着率の追い方を解説しています。
ちなみに私が支援してきたサロンのデータを見ると、自社チャネル(紹介・SNS・Google検索)経由の新規客はリピート率が40〜60%で、ポータル経由の倍近い数値になるケースが多い。理由は単純で、わざわざ店名を検索して来る人と、クーポンの金額だけで選んでいる人では、来店動機のレベルが違うからです。同じ1人の新規客でも、チャネルによってLTVが倍近く変わるという事実は、もっと真剣に受け止めるべきだと思っています。
やめる前にチェックすべき3つの指標
よしコストが見合っていないからやめようと決断する前に、もう少し冷静になりましょう。
チェックすべきは3つ。
1つ目。新規客のうち、ポータル経由の比率は何割か。80%以上なら、いきなりやめるとインパクトが大きすぎます。30%以下なら、実はすでにポータルへの依存度は低いので、プラン縮小のリスクは小さい。
2つ目。ポータル経由の新規と、自社チャネル経由(紹介、SNS、Google検索)の新規で、リピート率にどれくらい差があるか。ポータル経由のリピート率が格段に低いなら、新規は来ているけど利益にはなっていない可能性が高い。私の経験では、自社チャネル経由の新規客はポータル経由より定着率が20〜30%高い傾向があります。その理由は単純で、わざわざ自社サイトやSNS経由で来る人は、そのお店を指名して来ているからです。
3つ目。ポータル以外の集客チャネルが今いくつ稼働しているか。ゼロなら、まずはポータル以外の集客方法を参考にチャネルを増やすのが先。すでに複数のチャネルが動いているなら、ポータルのプランを下げても怖くないはずです。
大手ポータルをやめた結果どうなるかでリアルな移行事例も紹介しています。
数字がわかれば恐怖は半分になる
この記事で一番伝えたかったのは、ポータルをやめろということではありません。
怖いのは高い掲載料そのものではなく、自分のお店にとってその投資がペイしているのかどうか、数字で判断できない状態にあること。
帝国データバンクの2025年調査では、美容室の倒産件数が過去最多の235件に達する見込みです。物価高、人件費上昇、競争激化——外部環境は厳しさを増している。こういう局面では、感覚や慣性で支出を続けることのリスクが一段と高まります。
なんとなく続けてきたから、やめるのが怖いから——その気持ちは本当に理解できます。でもデータがあれば、恐怖は半分になる。ポータル経由のリピート率、LTV、他のチャネルとの比較。これらの数字が手元にあれば、感情ではなくロジックで決められます。
たとえば、年間294万円のポータルコストを段階的に削減するシミュレーションをしてみましょう。まずプランを1ランク下げて月5万円にする。浮いた5万円のうち3万円を自社のInstagram運用に投下し、2万円を予約システムの導入に充てる。半年後にポータル経由の新規が2割減ったとしても、自社チャネルからの新規がそれを上回っていれば、トータルのコストは下がり、かつリピート率の高い客層が増えている——そういう状態が作れるわけです。
いきなりゼロにするのではなく、小さく始めてデータで検証する。私が見てきた成功事例は、ほぼすべてこのパターンでした。
294万円を、スタッフの昇給に回したら。設備を更新したら。自社の予約システムを導入して、ポータルに渡していた手数料をゼロにしたら。予約管理を効率化する5つのポイントで触れたように、自社システムの導入は思っているより簡単です。
月末の請求書にため息をつくその5分を、データを確認する5分に変えてみてください。答えは、たいてい数字の中に落ちています。



